「学校の「当たり前」をやめた」 工藤勇一 時事通信社
こちらの本を手に取ったきっかけは、以前テレビで千代田区立麹町中学校の特集を見たことによります。特集では、中間テストの廃止とかクラス担任制の廃止など、とても大胆なことをするなという印象を持つ内容でした。1時間の特集でしたが、なぜそういう改革をしたのかも経緯などが丁寧に説明されており、工藤先生にとても興味を抱いておりました。
そういった記憶がありましたので、改めて工藤先生の本を読んでみたいと思い手に取りました。
本の構成としては、
第1章 目的と手段の観点からスクラップ(見直し)する
第2章 「手段の目的化」ー 学校教育の問題
第3章 新しい学校教育の創造
第4章 「当たり前」を徹底的に見直す学校づくり
第5章 私自身が思い描く学校教育の新しカタチ
あとがき
となっております。
著者である工藤先生は、東京にくる前は山形県の中学校で教鞭を取られていたそうです。東京に来てからは目黒区の教育委員会や新宿区の教育委員会の指導課長を務めるなど、行政の立場からも教育を知り尽くしておられます。
この本は、教育関係者のみならず、サラリーマンなど世の大人たちにも是非読んでいただきたいと思う内容となっています。
理由としましては、学校の「当たり前」というのが得てして社会人になっても形を変えて存在しているなと感じたからです。会社では、前からやっているから変えられないとか、教えてくれなければ仕事ができないなど、学校でも生じている出来事が実社会でも存在していると強く感じたからです。
工藤先生は著書の中で、「学校とは、人が『社会の中でよりよく生きていける』ようになるために学ぶ場所」と記しております。そのためには、各生徒に「自律」することを求めています。
「自律」するためには、自ら考え行動し、困難に当たれば話し合いをして合意形成をしていく必要があります。それをやらない生徒たちは、実社会に出て困難にぶつかった時、誰かが解決してくれる、または誰かのせいにして責任を押し付けるなど、課題解決能力がない人になってしまうとあります。
麹町中学校では3年間を通じて、生徒たちに「社会でよりよく生きていける」ために必要なスキル(コンピテンシー、資質能力)を身につけていきます。
また学校では、手段の目的化にならないよう努めています。最上位の目的があって、それを達成するためにその手段が適切で無ければなりません。ですがその手段が目的化してしまっている例も少なからずあると言っています。
著書の中では服装指導の例を挙げています。工藤先生は、服装自体に大きな問題とは捉えていないとおっしゃっています。最上位の目的、ここでは「社会の中でよりよく生きていける」において、服装の細かいチェックは問題ではないと言っております。
問題は問題だと捉えてしまうから問題になってしまう。個性をみて、少し変化を付けてあげればそれは問題ではなくなるともあります。
学校にとって何が目的なのか、それを見失なわなければ自ずとやるべきことが見えてくるということだと思います。
私たちは、社会の中で生きています。人と人とが交わりながら生きています。その中では意見の対立などもあります。無用な対立は避けたいものですが、より良いものを作っていくためには時として避けることができません。
最初からその対立を避けるような生き方では、よりよく社会で生きていくことはできないと思います。しかしながら、人には色んな個性や価値観を持っております。自分にはこういう特性や個性がある。一方で他人にも個性や価値観を持っている。
全て同じ人などいません。みんなそれぞれ違います。これを大前提として生きていかないとボタンの掛け違いを生じることになります。
”彼を知り己を知れば百戦殆からず” ではありませんが、自分を知り、相手の価値観を知って対話を心がけていく。これが社会で生きていく術になるのだと思います。
自分の個性を知り、他人の価値観も共有できる社会では、今よりもっと寛容になってくるのだと思います。人は違って当たり前ですので、今まで問題だと言っていたものが問題にならなくなります。そうなりますと無用な対立はなくなり、人の個性を尊重できるようになるので生きやすくなるのではと思います。
この本のあとがきに、工藤先生は最初リーダーになるとは考えていなかったとあります。そこで思い出したのが、ドラッカーの言っているリーダーの素質です。
ドラッカーはリーダーシップとは「好かれたり尊敬されたりすることでなく、部下に正しいことをさせること。あれやこれやと指示することなく、どしどし権限を委譲すること」とあります。
リーダーとは役割・手段であって、志があれば誰でもできると思います。やり方は千差万別であり色んなタイプもありますが、そのやり方(マネジメント方法)をしっかり学べば誰でもできると思います。あとがきを読ませていただき、そんなことを思いました。
繰り返しになりますが、この本は教育関係者だけでなく、全ての社会人に読んでもらいたいと思っています。とても気づきの多い本でした。
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