「教養としての社会保障」 香取照幸 東洋経済新報社
少し難しい本を手に取ってみました。「教養」という言葉に惹かれたのもあります。
内容はタイトルの通り、社会保障について書かれております。社会保障という言葉を聞いて、どんな事を思い浮かべるでしょうか。生活保護とか、健康保険、年金もありますね。
この本では、社会保障の基本や今日本社会がどのような状態になっているのか、また今後社会保障はどう変化していけば良いのかといった事を丁寧に分かり易く書かれています。
大雑把な内容としては、
◎社会保障の系譜、理念、制度体系から基本的な哲学
◎日本社会の現状(人口減社会、少子高齢化)
◎産業としての社会保障、
◎これからの社会保障のあり方
という感じです。
こういった制度を学ぶ時は、成立した経緯をまず知ることが大事だと思います。
日本の敗戦直後は誰しもが貧しい時代でした。そういう時代では貧富の差というものがありません。この本ではマクロとミクロの乖離という言葉で表現されています。戦後まもない時期はこの乖離がない状態です。
その後、急激な高度経済成長を経て社会が円熟し、様々な価値観の表出や雇用体系の変化、少子高齢化や人口減社会の出現により、社会保障制度に対する見方も変わってきています。
バブルがはじけて人々の暮らしが上向きにならない。高齢者には手厚い保障がある一方、働き世代への保障は薄いため、不公平感が出てきている。国は高齢者が増えてきて医療費などが嵩み、財政支出が多くなり国債発行も増えてきている。何とかして負担を増やし支出を抑えることでプライマリーバランスを整えたい。このままだと社会保障を維持することは困難である。
筆者はこのマクロとミクロの乖離が社会保障改革を難しくしていると指摘しています。マクロの視点で言えば国の財政が逼迫しているので社会保障改革をして、給付を少なくし負担を増やしたい。ミクロの視点で言えば、自分の生活が苦しくなる政策には賛成できない。総論賛成だけど各論になると反対せざるを得ない。
ここに社会保障を取り巻く課題の難しさがあると指摘しています。確かにその通りだと思います。年金を例にすると、若い世代には年金制度に対して不信感があると聞きます。少子高齢化が進み、国の財政が逼迫すればこれまで支払ってきた年金も受給できなくなるのではないか。そうであれば、年金保険料なんか支払わずに自分で貯金しておいた方が良いのではないか。
そんな問いかけにも、国の政策を丁寧に説明しています。年金で言えば、マクロ経済スライドというものを設定しています。これはどういうことかと言えば、「そのときの社会情勢(現役世代の人口減少や平均余命の伸び)に合わせて、年金の給付水準を自動的に調整する仕組みです。」(厚生労働省H Pより引用)ということです。この制度により、年金制度が破綻することはないと言ってます。年金制度が破綻するときは国が破綻する時です。
社会保障制度は複雑な制度なため、マスコミなどは一部分を切り取って政府が悪い、今の政権では解決に至らないなどと煽っています。全体像が見えない国民にとっては、そのような報道を信じていまい、より一層政治不信に陥ってしまっています。こういう時こそ、ちょっと難しいかもしれませんが、制度全体を分かり易く説明してくれる本はとても役に立つと思います。
また、国の行政マンが制度設計のために真剣に取り組み、将来世代にツケを残さないように、また社会全体が安心して暮らしていけるよう日夜頑張ってくれていることも分かります。
この本を読んで感じたことは、社会保障はあくまで保障なのでそこに頼りすぎるのは良くないこと。自助を基本とし、でも病気や老化で体が動かなくなる時は共助で皆んなで助け合う。困ったときはお互い様という雰囲気が醸成されていけば、社会はより寛容になり安定していくのだと思います。
この本の最後に、これから社会人になる人、特に公務員になる人に向けての記述があります。これは社会人全般に対してとても役に立つと思います。
社会保障制度は国民全員の日々の暮らしに関わる大事な制度です。国や省庁がどのように考えているのか、確認するだけでも視点が変わってくると思います。ぜひ手に取って読んでみることをおすすめします。
アマゾンには「教養としての」本が色々あります。
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